December 20, 2006

「Dendroboimとは?」


矯正歯科 : 鎌倉 dentfaco 山本歯科・矯正の Blog
カマクラデントフェイシャルオ−ソピディクス山本歯科・矯正
院長 : 矯正歯科医 : 山本一宏の ブログ 81)

「Dendroboim氏の不思議な物語」

「夕と舊い物語」より

デンドロボイム氏

その刻限に限りなく近い色のリムジンが
黒い鉄の柵から 白い大理石の墓標が見透かされる
丘の上を 哀愁に似たエキゾーストを引きながら
通り過ぎていった

Dendroboim氏ーーーこの不可思議な紳士について
現今では その消息までが 限られたひとたちの
脳漿の一角にしまい込まれ ひとつの
限られた季節に 撰ばれた土地の
小高い丘 半透明の花粉のにほひのする
暮方に そこに舊くからあるカフェに
集まってくる人士たちの 心情の
えもいいがたい 變化のうちでもない限り
決して思い返されるものではなくなったのであるが
一時は 一世を風靡した某国の芸術院会員で
その描く絵画も 社交界で 桁違いの高値で
取引されていたものだった

わたくしが この紳士と
交誼を結ぶようになった時分には
彼はすでにその生涯の終焉
精神の終局近くにあって
それらの夕も遅く
街路をゆく人々が顔を失ってゆく
刻限に わたくしが彼を訪れる時
彼は片時も外出しなくなっており
すでに ただわたくしだけが 彼を訪れる
外界となっていた

何でも新しい発明をしたとのことであったが
かなり専門的な説明だったので
わたくし自身の理解を超えるところであったが
ほぼこんなことだろうと思ったところの
記載を試みてみるに
なにしろ 彼は 何本かの細い鉄骨を組み合わせ
その先端に畫筆をつけ
それを持って据えられたキャムバスにひとつの繪画を描くと
その機械に取り付けられたすべての畫筆が動き
いちどきに何枚もの繪画ができあがるといった
機械を編み出したとのことであった

彼は これは ひとつの暫定的な形態で
いずれはこれに難しい方程式を組み合わせ
一筆で∞のコピイをつくれる機械に発展させる
意図を持っているとわたくしに語った

ある日 わたくしは その機械のことを考えながら
自らのフロックに すっぽりと身を包まれ
彼の邸宅に向かっていた そして

ふと 胸騒ぎを覚えて
急ぎ足で
館に向かったのであった

彼の館の合い鍵を差し込んで
分厚い木でできた玄関の扉を押し開いた時
普段そこに籠める 黴臭い澱んだ空気ではなしに
夕べの大気を嗅ぎつけ 
アトリエに続く扉を押し開けた

Dendroboim氏は 流れ込む月光と
丁度相對対峙する角度に
自らと自らの最期の作品を連續させ
ひとつの橋の形態をもって
彼と彼の繪画からなる
虹の連續となって
虚空に消えているのであった

(1978.11.18)


19:08:00 | dendroboim | | DISALLOWED (TrackBack) TrackBacks