December 21, 2006

「童話 : 星 灯台と夜光虫のお話し」


矯正歯科 : 鎌倉 dentfaco 山本歯科・矯正の Blog
カマクラデントフェイシャルオ−ソピディクス山本歯科・矯正
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一場限りの紙芝居
   ーーー或は星 灯台と夜光虫のお話し

「童話 : 星 灯台と夜光虫のお話し」

これは遠い遠い島でいつかじっさいにおこったお話しです

夜の帳がすっかりと落ちると生温い潮が満ちてきて
白い砂浜に
まるでおもちゃ箱をひっくりかえしたような
潮騒を轟々と響かせました

空は澄んだラヴェンダーで
海は煮出したオリーヴ茶のように
深い碧を湛えておりました

そうして桟橋には
黄やピンクに塗られたとんがり帽子の形の灯台があって
ゆらゆら揺らめく光の束を
どっさりとはるか彼方に投げているのでした

そのとき沖の方からなにやらきらきら光るものが
大きなうねりに乗ってやって来ました

それは おびただしい数の夜光虫でした

灯台の前に広がる入り江にやって来ると
やがてクリスマスツリーのイリュミネーションのように
ぴかぴかと光のおしゃベリをはじめました

空には雲ひとつなく
いっせいに星たちが顕れて
こちらもまたチカチカとひかりの交信を始めました

「クフフ デンドロボイムが
きのう木星のイオにきて
スコルピオン・カクテルをやったよ クフフ」

「ヘヘフ フィリップ・ムーングロウなんか
火星でパイププカプカやったさ ヘヘフ」

「ハハヒ もうねんねしたかな
ハハヒ いい子でよくママの言うことを聴くし
明日も幼稚園で早いからね ハハヒ」

星達はてんでに好き勝手なことを言い合いました

それから星達は一斉に砕けながら落ちてきて光の群れに加わりました

そのときです

一匹の夜光虫がチューヴ・ライディングに成功しました

チューヴ・ライディングというのは
人間のサーファーのうちでも
ずば抜けた人たちにしかできない

砕けていく波の中のトンネルを
決して波に巻き込まれることなく
くぐり抜けてゆく技です

一匹がチューヴ・ライディングに成功すると
今度は次から次へと無数の夜光虫達が
ひとつの波の中のチューヴのなかで
ライディングを繰り返しました

人間の世界では
ひとつの波はひとりのサーファーのものなのですが
なにせこちらはちっちゃな夜光虫のことですから
こんなこともありなんですね? 

やがてゆっくりと浜に向かっておしよせる
波のなかのチューヴは
全体がぼんやりとすてきなネオン管のように
光を放って輝き続けました

次の波もまた次の波もーーー
そうやって波達は水琴窟の様な音を立てて
光ったままにブレークを繰り返しました

それまでだまってその光景を見守っていた星達も
やがて大いなる笑い声を立てながら
遊びの輪に加わってきました

星達はミントやら
ボロニア・ピニャータやら
ヒヤシンスやら
その他あらゆるいいにおいのするものの
薫りを撒き散らしながら
夜光虫達の光の合唱とはまた別の
天上のイリュミネーションを繰り広げました
赤みがかった蠍のサンバ
碧にはにかむなかよし双子座
すっきりとブルーのガラスでできた
シリウスのある大犬座

そしてこれらの天上の星達の光と
夜光虫の命が紡ぎだす光と
人の創りだしたアーティフィッシャルな灯台の光は
やがてひかりだけからできた
おおきな交響曲となって鳴り響いたのでした

そして 確かにこれらの一連の光景を
すっかり夢の中で見たのです

さて夜が明けるころ
浜には
いくつもの星の残骸が転がっておりました

それらはまるで幸せな一夜を思いっきり遊んでから
お空に帰っていった星の抜けがらにもみえたのでした

(2003.3.7)


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